「ロバの耳」に象徴されるメールカウンセリングの実態

クライアントがメールカウンセリングにおいて語ることの大切さの由来は積極的な人間関係にあると言えます。アンナ自身が命名した「おしゃべり療法」こそメールカウンセリング、心理療法というものの一つの本質を見事に表現していたと思います。
この事情は、いわゆる神経症の方を対象としたカウンセリングの関連でフロンドが発見したものですが、人間に関しては昔からたくさんの人々が関心を抱いてカウンセリング分野以外でも様々な形でテーマとして取り上げてきました。扱いの難しい事情、そして言葉にすることも皆さんがこれまで聞かれたことのある有名なお話の中に見事に表現されています。

ほとんどの受講生の皆さんがメール資料の、「王様の耳はロバの耳」というお話を聞きになったことがあるかと思いま。このお話は今ここで取り上げているメールカウンセリングとおしゃべり療法のテーマを扱っています。ギリシャ神話に基づくお話ですが、何人もの人がこのお話を元に世界中の人々に広まったお話です。「ロバの耳」のロバということについて考え始めると色々検討できますが、それは別の機会に譲るとして、ここでは何といっても王様の大事な秘密を抱え込んでしまった床屋がこの秘密を一人で抱え続けることがあまりに大変で、ついに地面に穴を掘って、あるいは井戸の中に向かって「王様の耳はロバの耳」と叫ぶというところが面白いところです。王様の耳がロバの耳であるのを見てしまったということは、床屋にとってじつに扱いの難しい事情と出会ってしまったのです。
一人で抱えるにはあまりに大変な事情で、誰かに話さずにはいられない。しかし王様には話すと死刑にするぞと脅されている、そこで仕方なく地面に穴を掘って言わば告白をし、あるいは大きな荷物を降ろし土をかぶせて埋めてしまいました。地下に埋める、あるいは水の中に沈めるというのはメールカウンセリング、あるいは臨床心理学、深層心理学的にはとても象徴的で無意識の中に埋めてしまうと理解できます。昔話や神話ではこの地下に埋められた、あるいは水の中に沈められた大切なものを取り戻すお話が世界中にあり、それはカウンセリング的に見れば無意識に沈められたものを今一度意識の中に引き戻す作業です。いずれにしてもお話の中の床屋は扱いの難しい事情を一人で抱えるのはあまりに大変だけれども、人に話すことは固く禁じられているので地面を掘って穴に向かって「王様の耳はロバの耳」と言葉にしその上で土をかけて文字通りに封印しようとしました。床屋は地面の穴に向かっておしゃべり療法を試みたと表現することもできます。この話は随分と極端なものに聞こえるかもしれませんが、じつは私たちの生活の中にも同様のことは絶えず見つけられます。

メールカウンセリングと「澱(おり)」

扱いの難しい事情を自分一人で意識の中に抱えるというのはなかなか大変なことです。だからこそ人々は友人や恋人、あるいは夫や妻に様々のことを語り、メールカウンセリングが利用されると思います。この世で毎日生きていくのは大変なことです。生活の糧を得ることだけでも大変だし、考え方や感じ方の異なる人々となんとか折り合いをつけることは並大抵のことではありません。家の中なら安心かといえば、ある意味では一番親しいはずの家族こそが苦悩の源泉ということもそれほど珍しくありません。おまけに日々考えられないような出来事と遭遇せざるを得ないのが人生です。妻や母親の立場にある方々がパートナーに「うんうん」と話を聞いてもらうだけでどんなに支えられるかということがよく語られます。
話を聞いてもらえない方々の中には地面の中に向かってではないにしても犬や猫といったペットに話を聞いてもらうという方々もおられます。お金を払ってカウンセリングを受ける方もいます。生きていくには葛藤や扱いの難しい事情と出会うのが避けられない。かと言って自分一人で抱えるのは至難の技、それどころかあまりに大変な事情や感情を自分の中だけに抱えてしまうと神経症、心身の病気になる。このような事情を見事に表現したのが王様の耳はロバの耳というお話でもあると言えるように思います。

皆さんは、「澱(おり)」おりという言葉を聞いたことがあると思います。漢字ではさんずいに「殿」と書きます。広辞苑によれば「水底に沈んでたまる流れないで滞る淀む」と説明されています。メールカウンセリングの講義の中で日々生きていると述べたように、葛藤や扱いの難しい事情との出会いが避けられずその中で様々な感情とりわけ一般的に否定的と言われる感情、例えば驚き悲しみ怒り嫉妬、寂しさ不安、絶望、痛みといった感情は一人で抱えたままでいると、水底に沈んでたまま流れないで滞る淀みになります。カウンセリング的に言えば、人間の中には澱を抱える、比喩的に言えばヘドロのように増大し流れが全く止まってしまう方々もおられます。最近では血管内の血液がサラサラであるとかドロドロであるとかいう話から、血管の壁に付着したコレステロールが動脈硬化を引き起こすという話がよく聞かれます。メールカウンセリングでは比喩的に心の水の流れといったもの、壁に溜まる澱とイメージしてください。

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